サマーウォーズ

以下ネタばれっす。





大学生のころに仙台のセンパイに紹介していただいた「細田守」。
それからというもの、この人にずっと注目し続けてきた。細田守が関わった作品はほとんど見ている。
それゆえに、今回の作品は劇場版「デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲーム」の焼き直しではないかと、事前に公開された予告を見てかなり危惧していた。


実際に見た。
確かに話の大筋、プロットはデジモンぼくらのウォーゲームにかなり近い。
しかしながら、それでこの作品が退屈なものになってしまったかというと、それは違う。
むしろ、これまでの細田守作品を見てきたがゆえにニンマリできるシーンが盛り沢山だった。
デジモン劇場版やルイ・ヴィトンのPVに携わって学んだことを、余すことなくこの作品内で活かしていると感じた。
原恵一が「河童のクゥと夏休み」でやりたかったことを事前に「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲 」でやっていたのと同じ状況かもしれない。
おそらく、細田守が本当に作りたかった映画はこの「サマーウォーズ」で、そのアイデアデジモンに刷り合わせていたというのがホントのところではないだろうか。


全体として、かなりの完成度。


脚本は起承転結がすっきりしていて大変分かりやすい。
二時間、目を離すことなくスクリーンに集中することができる。
しかし、「ここで泣いてください!」という分かり安すぎるクライマックスが若干鼻に付く人もいるかもしれない。
また、主人公とヒロインの間の関係性について、若干説明不足の感がある。
最終的に二人の間に生まれる絆にもっと説得力を持たせることが出来れば、さらに良かったと思う。
…と、まぁ若干不満な点もあるが、二時間という時間の中で精一杯の出来ではなかっただろうか。
「二時間、ずっと目が離せない」というのはかなりスゴイ。


演出のうまさは秀逸。
特に盛り上げ所での、タメ、間の作り方のうまさは異常。
アニメ演出家も沢山いるが「タイミング・時間の使い方」に関しては細田守の右に出るものは居ないように思う。
家族みんなが喜ぶシーン。「やったー」ではなくて「やぁぁぁ      ったー!!!」なんだよなぁ。
その他にも、キラリと光るいい演出がてんこ盛り。
おばあちゃんが亡くなった際に、赤ん坊の泣き声で場面を転換したり、それから、家族の様子を縁側をスライドするカメラワークで見せたりするなど、もはや芸術の域に達している。
正直これだけでも1800円払う価値がある。



原画は崩れているところはないし、動画も大家族の食事シーンなどは圧巻。
さすがマッドハウス。抜かりは無い。
背景も時をかける少女には及ばないものの印象的に描かれており良い。
さらに今回がんばったのが、様々な種類のアバター
よくあれだけ準備して書き分けたものだ。しかも、それぞれが活き活き良く動く。
細田守大好きの仮想世界描写だが、今回の作品は今まで培ったものを余すところ無く生かしている。
コイコイのシーンではその映像美もシーンの盛り上げに一役かっていることは間違いない。
ただただ綺麗の一言。花札の絵柄の持つ美しさが存分に表現できている。さらにそれがまた、いい動き方をする。
海外でも評価されるだろう。


声優もみんながんばっていたし、全然問題ない。
時をかける少女の冒頭部分の仲里依紗演の演技には、正直度肝を抜かれた。
しかし、今回はみなさん、冒頭から安定した演技を見せている。
さらに驚いたのがおばあちゃん役の富司純子。実にうまい。
声優初挑戦とはとても思えなかった。ちゃんとした声優だと思った。
これからも声優としても活躍してほしい。


繰り返し言うが全体としてかなりの完成度の作品であった。
難癖をつけるとしたら、その完成度の高さのために、枠の中に収まってしまっている感があることぐらいだろうか。
また、尺が二時間と時間が短いにもかかわらず登場人物が多いので、それぞれのキャラクターの魅力が存分に発揮されているとは言えない。しかし、これは「大家族」をモチーフにしたうえでの宿命であるので、解決策はないように思う。


時をかける少女が好きだった人がこの作品に満足するかは分からない。
時をかける少女には人を熱狂させる魔法のようなものがかかっていた。
サマーウォーズはそれとはまったく違うベクトルの作品である。
ネットのどこかで「時かけはキャッチボール、サマーウォーズは野球になっていた」という名言を見た。
これは実にいい表現である。
細かいところは置いておいても、作品の主題として全く違うものを扱っているのである。


総じて一般の方々が見ても「いい映画だった」と感じてもらえるのは確実。
また、アニメオタクのみなさんにも十分お勧めできる傑作である。


この映画をみて、田舎に帰りたくなったので、お盆にちゃんと帰りました。
それで従兄弟たちともう一度見ました。


そんな作品。