文学少女と神に臨む作家下

以下ネタバレアリ。



学会は盛岡だったので足を伸ばして遠野まで行ってきました。河童の故郷です。河童のクゥと夏休みでも出てきましたね。
そして、最近ではライトノベル文学少女シリーズ」の最終巻にもちょこっと登場しました。主人公の遠子先輩の名前は柳田国男遠野物語から来てますし、作者が東北出身だからかシリーズの五巻には花巻にゆかりのある宮沢賢治の作品が大々的に取り上げられていました。


さて、肝心の本作の感想ですが、まぁちゃんとしたところに着地したなぁ、ちゃんと終わったなぁ、という感じです。ダラダラ続いて終わらない作品の一万倍いいですね。
正直今回はトリックなどはスゴイって感じでもないのですが、今までの伏線なども回収出来ていてまずまずの出来だったのではないでしょうか。舞花まぎらわしいよ舞花。ななせカワイソウダヨななせ。


シリーズ通してかなりの完成度で、僕が普段あまり本を読まないせいかもしれませんが「ライトノベルはレベル高いなぁ」と驚きました。面白かったです。毎巻一度読み始めると集中して最後までずっと読めました。
特にお気に入りなのは、五作目の「“文学少女”と慟哭の巡礼者」。このシリーズは毎巻、既にある有名な文学作品を一作とりあげて話の骨格にしています。五作目は「銀河鉄道の夜」でした。私はもう今年26になろうかというおっさんなわけですが、これを読んで本気で感動しました。岩手では宮沢賢治記念館などにも行きましたが、この作品を読んでいたからこそかなり楽しめたと感じています。


後に聖人のように扱われている宮沢賢治ですが、当時はただの変わり者として扱われていました。また、父親とは信仰の違いから対立し、唯一理解を示してくれた妹のトシは若くして亡くなります。さらに宮沢賢治本人も若くして病に倒れました。しかし、彼はそれでも「銀河鉄道の夜」などの作品の改稿を重ねていたのだそうです。彼が過去に自費出版した本は全く売れず、それらが本としてまとめられる予定は全くなかったのです。それなのに何故、彼はそんな出版する見込みの無い作品を何度も何度も改稿しつづけたのでしょうか・・・


・・・てな疑問へのヒントがこのライトノベルを読むともらえたりするわけです。ラノベおそるべし。
おたくで幸せだなぁと思うことは、この作品を読んでからそのモチーフとなった文学作品も読んでみる、などの行動をとっていることです。きっと僕のような人間はたくさんいるはず。
普段本を読まない僕に「こんな面白い文学作品もあるんだよ。これを書いた人はねぇ・・・それを書いた時こんな状況で・・・ねぇ、面白そうでしょう」と、この文学少女シリーズは語りかけてくれました。
それだけ読んでも面白い文学作品もたくさんあります。しかし、作者の生い立ちや執筆状況などがわかると、その作品の深みも増すというものです。そのような役割をこの作品はしてくれました。なんというか文学ソムリエ的な作品だったと表現してもいいのでしょうか。


作者の野村美月には心より感謝したいと思います。
まだ外伝などは続くようですし、そちらにも期待したいものです。