物理と社会シンポジウム

主題:「ニセ科学」とどう向き合っていくか?

ネット上やマスコミ関係で非常に大きく取り上げられ話題になっていたので、カーボンナノチューブのセッションを途中で抜けて参加しました。
僕も最近知ったんだけど「ニセ科学」という言葉の定義は以下のとおり。

ここで「ニセ科学」とは、(科学と擬似科学の境界付近にある位置づけの微妙な営みのことではなく)科学的に誤り(ないしは無意味)であることが明白であるにもかかわらず表面上は科学を装っている営みを指します。「ニセ科学」は、物理学の研究にはほとんど何の影響もないでしょうが、広い意味での科学教育を考えたとき強い影響力をもつおそれがあると考えています。

http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/events/JPSsympo0306.html より引用)


スケジュールは以下のとおりでした。
だけど最後の質疑応答は大分延びて1時間ほどやってたよ。なかなかアツかったですね。


●はじめに: 科学と「ニセ科学」をめぐる風景
田崎晴明 10分(質疑なし)
●「ニセ科学」入門
菊池誠 30分(質疑10分)
●「水商売ウォッチング」から見えたもの
天羽優子 30分(質疑10分)
●「ニセ科学」の社会的要因
池内了 30分(質疑10分)


討論と全体への質疑応答 30分


日本物理学会講演概要集 より引用)


座長は冨永靖徳(お茶大人間文化)という方でした。
最後の方で司会をしていたのは田崎晴明という方なのかな?なかなかキレそうな人物でしたね。
会場は300人ほど収容可能な講義室で行われていたんだけどパンパン。立ち見の人もすごく多かった。全部で350人ほどが講演に参加していたことになるはず。
参加者の8割ほどは男性だったけど、他のセッションに比べれば2割という女性の比率は多い。物理と直接は関係ない人(教育関係者?)も参加していたみたい(このためだけに入会したのか?)。
年齢層はオレみたいな物見遊山の学生がチラホラで、ほとんどが30代以上って感じ。教授クラスの人もけっこういましたね。中には、こういう話が大好きそうなパっと見“イタい”人もいたなぁ(まぁ、周りから見れば俺たちみんな同じに見えるだろうけど)。ちょっと怖かった・・・
全体としては一種異常な熱気もあったんだけど、終始笑いも含みつつ和やかに進んでいたと思います。学会のシンポジウムって初めて参加したけど、みんなこんな感じなんだろうか・・・あとねぇ、なんか「BSマンガ夜話」の雰囲気と相通じるものがあったよ。あんな空気。


詳しい内容についての話は面倒くさいので書かないけど、それぞれの「ニセ科学の産物」にも多様なレベルがあるんだなぁ〜と感じました。
「良い言葉をかけてあげた水を凍らせると綺麗な結晶が育つ」って話は、オレなら明らかにウソだと判断。マイナスイオンの正体については「ふーん、かなり胡散臭いけど、でもなぁ〜、あってもおかしくないのかなぁ〜うーむ、そもそも何かがよくわからん・・・」。ゲルマニウムアクセサリーの効能については「ゲルマニウムは導体にもなるし不導体にもなる。うんうん半導体だ!そのとおり!だから体がプラスだとゲルマニウムがマイナスになる?ハ?」てな感じです。
もっと物理に詳しい人だったら、その線引きがシビアになるんだろうし、分かってない人だったらマイナスイオンでも信じきってしまうかもしれない。
(しかも、定義にきちんと従えばマイナスイオンとかはニセ科学にはならないんだよなぁ。マイナスイオンの定義が曖昧すぎて、明らかな間違いとは言えないから)


ただ、ひとつ確かに言えることは、これらの事象について、その効果効能をきちんと実証した実験がないってこと。
これでは「科学」足りえない。科学っていうのは人を説得するために実験したり調べたりしたデータを出さなくてはならない。そう考えた理由を示さなくてはならないんだよな。当たり前だけど。
そこで更にヤっちゃって、ウソのデータを出すと「ES細胞」や「薬害エイズ」のような悲劇が起きてしまうことになるわけだ。


これはシンポジウム終りの質疑応答で話があったことだけど、このおもしろおかしい「ニセ科学」というシンポジウムで薬害エイズまで話が広がるとは意外だった。マイナスイオン発生器やゲルマニウム浄水器に30万円払うのはまだ「笑い話」で済むかもしれないけど、その延長線上に人の命がかかっているのかもしれない・・・そう考えると本当に恐ろしい。


最後の質疑応答では参加者の方から、「効能があるかも疑わしいマイナスイオンだけれども、これを付加価値にすれば売上が伸びてしまう。会社にもマイナスイオンを使った新製品をだすように言われた」といった嘆きなどもあがり、「自信がないんだけれどももう後戻りできない人たち」の懺悔の時間になってました・・・みんないろいろ溜まってたんだね・・・
心に後ろめたいものを持ちながらも、様々な理由によって声をあげられなくなってしまっている人達がいる、ということにも気付かされました。


と、いうわけで「俺たちからしてみたらアホらしい話してるなぁ、民衆は無知だ!フハハハハハ」とちょっとだけ天狗になっていた、もしくは無関心だったオレ(きっと多くの科学に携わる人もそうなんじゃないかな)ですが、いろんなことを勉強できたように思います。参加して良かったー。純粋に論理的な話として面白くもあったしね。
さらに、みなさんの「科学的に正確な情報」を求める欲求も意外と大きいんだなぁ、と嬉しく思いました。みなさんも心のどこかに「ホントかな、でもみんなイイって言ってるしな」といった葛藤があったんですね。


これは空想科学読本と同じにおいがする・・・。ブームがくるのかもしれない・・・本とかだしたら売れそうだ・・・・そういう記号的な意味でも物理学会でこのシンポジウムが行われた意義は大きいな・・・


ともあれ、マイナスイオンは「いかがわしいものが出てきたなぁ」と思っていたら、いつのまにか社会に受け入れられてしまいました。もう後戻りできないところまで来てしまったように思います。
オレもこれからよく分からないものがでてきたら「よく分からない!」とみんなにちゃんと伝えられる科学者になりたいものです。ハイ。
とりあえずみなさん、ゲルマニウムに気をつけてくださいよ。



※ この文章はマイナスイオンゲルマニウムの医療的効能を全面的に否定しているわけではありません。ただ、今現在科学的根拠が乏しいですよ、ってお話です。これから根拠が出てくる可能性もじゅーぶんあるでしょうね。


・・・と、思ったら田崎晴明さんがはてなでブログやってるよ。
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