ハウルの動く城

恥ずかしながら初めて視聴。
なんだ、あんまり評判よくなかったけどめちゃくちゃ面白いじゃん。
確かに「ラピュタ」や「ナウシカ」が好みの人にはイマイチかもしれないけど、全体としては非常に良くまとまっている優等生作品。この作品で監督業から引退できた宮崎駿は幸せだな。



まず、原画について。
「めちゃくちゃ美しい線」というのはこれまでの作品に比べて少なかったように思うが、そこはやはりジブリ。崩れているところは皆無だった。特にソフィー(倍賞千恵子)の外見年齢がグラデーション的に変化している様子を書き分けることにきちんと成功。
構図はいつもながら最強の出来で、宮崎駿の腕は全く衰えていなかった・・・。「このシーンならここにキャラを立たせて、ここにカメラを置いて撮る」という空間認識能力が神がかり的。しかもシーンによっては時間軸も考慮にいれた構図を作り出すのでもはや人間の技では無い様にも思えた。この構図を作る「絵コンテをきるうまさ」は最後まで世界のトップだったと思う。
あとは・・・毎度の事ながら、異常なデザインの複雑さにも関わらずメカ系も細部まで歪み無くきちんと描けていた。
これまでの作品に比べて眼にハイライトが強く入っている印象があったが、一般の人がおかしいと思わないレベルかな。


動画について。
ジブリの真骨頂である超動画は健在。
城に関してはCGを使っていたようだが、キャラクターの動きに関しては「anime」を踏襲した面白い出来で、食事シーンに関してはこれまでどおり言うことはない。落語と宮崎駿アニメの食事シーンでは本当に腹が減ってくる。
ベトベトもちゃんとベトベトしているように見えるし、流れ星(?)もちゃんと飛んでいるように見える・・・ジブリアニメがすごいのはこの動画力。これは宮崎駿だけがいくらすごくても作りだすことは出来ない。この点に関しては明らかに「ジブリ」がすごい、ということが出来るのだ。これを作った人たちはモノの加速度について本当によく分かっているな・・・


背景。
非常に美しい。もはやそれだけで美術品。
「どこでもドア」のおかげでまるで「世界の車窓から」を見ているような本当に清々しい気持ちになった。


音響SE。
相変わらず素晴らしい出来栄え。ジブリアニメではその素晴らしい映像にばかり注目が集まるが、他のアニメ作品の比べても音が本当にイキイキしている。複雑な音たちのからみあいが映像を分かりやすく頭に運んでくれているわけである。今回特に印象的だったのはそれぞれの足音。足音を聞くだけでそのキャラクターがどんな場所に立っているのか、どんな状況なのかすぐわかった。音楽はいつもどおり久石譲でキメ。


声優。
今の時勢を考えれば無難な選択・・・どうしてこうアニメ映画は普通の声優を使ってはいけなくなったのか・・・。
ソフィーは倍賞千恵子でなくても良かった。作品導入部では明らかにヘタ。
ハウル役の木村拓哉は心配していたが普通。非常に器用にこなしていたな。
今回驚いたのは神木隆之介。こいつは天才だな。俳優と声優は明らかに種類の違う仕事なのに、普通の声優に劣らない演技をしていた。千と千尋の時はいっちゃってるキャラでわからなかったけどスゴイ子だな。


脚本
作品導入部分は弱い。次から次へとイベントが進んでいく、まるでRPGのようだった。さらにはソフィーがハウルを好きになっていく描写も希薄。
しかし、中盤以降になるとやっと物語りも締まってきて作品のメッセージ性も生まれていたように思う。それぞれのキャラクターを掘り下げようとする動きも随所に見られ、ちょっとした仕草や表情などの絵のうまさとも相まって大変良かった。
戦争うんぬんは話の主題ではないので「どうせアニメだし!」的なあっさり味に仕上がっていたが、これをやり始めてると2時間ではとても収拾がつかなかったはずなので吉。もののけ姫のラストからきちんと学んでいる。これは宮崎駿の最後の監督作品。やはりなんとしても「ハッピーエンド」にしたいところだ。サリマンの「そうなの、ハッピーエンドなのね?」という台詞には笑ってしまった。


全体としては、とてつもなく良く出来た作品。
ただ、みなさんも見て分かるとおり、今までの宮崎駿作品の総決算的な位置付けとなっているように思う。
「これは前のあの作品と似ているな」というもので出来ている。特筆すべき新しいものは無い。
更に一般の方にあまり受けがよくないのはドキドキワクワク感が「今までの作品に比べて」確実になくなっているからでは。この点は原作のせいだともいうことが出来るが、5年前の宮崎駿なら絶対にオリジナルの「見せ場シーン」を入れていたはず。



宮崎駿という世紀の大天才も歳をとる。それは当たり前のことだ。
むしろネタ切れになるまで自分を出し切ってこれた人生をおくれたこの人は本当に幸せだということが出来るだろう。
今まで素晴らしい感動をありがとうございました。



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ゲド戦記にも触れておかねばならないだろう。
脚本←構図←原画←動画の順で監督の力量が問われる。上で述べたとおり、動画・原画においては優秀なスタッフが離れていかない限り、監督が誰になろうが変わらないのが普通。しかし、脚本製作やシーンの構図を決める絵コンテを切る作業は、一部の人間にしかできない・・・ここで宮崎吾郎監督の評価が下されることになるはずだ。


エヴァンゲリオン2なんて作ってはいけない」と庵野秀明に言った宮崎駿
今、自分の息子が宮崎駿2になろうとしていることはなんとも皮肉である・・・。



ねぇ、そうでしょう。鈴木プロデューサー・・・